2017年6月2日金曜日

制御焦点と集団内における社会的交換 ‐寄付シナリオ実験による検討‐

二匹目のドジョウと言うか落穂拾いと言うかちょい足しレシピと言うか、そういう論文のイントロをうまく書ける能力がほしい。最後の段落しか変えるところないよ。

それはそれとして、ペイイットフォワード祭りその3。

佐藤有紀 & 五十嵐祐. 制御焦点と集団内における社会的交換 ‐寄付シナリオ実験による検討‐. 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要 61, 37-45 (2014).

制御焦点理論(要するに人の思考の方向をプライムしてその方向によって行動が変わる)を使って寄付シナリオ実験の結果が違うよ。つまりは、制御焦点のコントロールによって自身の寄付額も異なるし、他者の寄付額に対する期待値も変わる。

さて制御焦点理論。2つあって、利得の存在に接近して利得の不在を回避しようとするのが「促進焦点」。もう一つは、損失の不在に接近して損失を回避しようとする「予防焦点」。

促進焦点は利益へのポジティブ認知、リスクテイキング、抽象的情報処理、変化への選好を駆動する。予防焦点はコストへのネガティブ認知、リスク回避、具体的局所的情報処理、安定選好を駆動する。

ということで制御焦点によって社会的交換状況におけるコスト認知や利益への認識等を変化させるから協力行動にも変化を与えるであろう。

社会的交換状況で考えるのは3つ。直接互恵(DR)、ダウンストリーム的間接互恵(ここではSocialized Indirect Reciprocity:SIR)、アップストリーム的間接互恵(ここではGeneralized IR:GIR)。

制御焦点と社会的交換の関連をいろいろ見つつ立てる仮説は3つ

  1. 促進焦点のほうが予防焦点より寄付額が大きい
  2. 促進焦点ではDR,SIR,GIRどの状況でも自身への返報期待額を大きく見積もる
  3. 促進焦点ではDR,SIR,GIRの返報期待額は同程度だが、予防焦点においてはDRの時だけ高くなる

実験いきます。(そうそうどんなシナリオでアップストリーム/ダウンストリームを実現するかが知りたかったのですよ)。

まずは制御焦点を操作。促進焦点では「こうありたいという理想形を自由記述、予防焦点では「こうあるべきという義務について自由記述」。更には迷路課題でゴールに報酬イラストがあるもの(促進)と、スタートに脅威イラストがあるもの(予防)を準備。(こんな簡単に制御できるのかいな)。

さて問題の寄付シナリオ。まずは「知り合いではないが同じ大学の学生が自然災害で被災して金銭的に困窮する」というシナリオで「自分が自由になるお金(10万円)のうちいくらを寄付するか」を回答。続いて、その行為が評判として公開(学内の広報誌にとりあげられる)としてDR:将来自分が被災したら今回の被災学生は自分にいくら寄付してくれるか、SIR:将来自分が被災したら大学内の第三者の学生はいくら寄付してくれるか、GIR:将来、大学内の第三者の学生が被災したら今回の被災学生はいくら彼に寄付するか、という3つの互恵性場面の期待額を回答。

結果どーん。

まずは個人要因(一般的信頼)とかは寄付額とかに影響与えてなかった(え、そうなの?)。

  • 仮説1:促進焦点と予防焦点で自分の寄付額は、異なります。圧倒的に促進焦点のほうが多額を寄付すると答えている。めでたく仮説1はOK!
  • 仮説2:返報期待額もDR,SIR,GIR全てにおいて促進焦点が高い。仮説2もOK!
  • 仮説3:予防焦点においてDRだけが高くなることはなかった。また促進焦点内ではGIRの値が高くなった。仮説3は残念!

いやーきれいに出るもんだなぁ。うらまやしい。寄付シナリオでアップストリーム・ダウンストリームをコントロールするやり方としては面白い。

限界としては、焦点のコントロール群を用意しなかった。操作チェックも行ってない。被験者内部分(DR,SIR,GIR)でカウンターバランスとってない。普通の投資ゲームでも成立するかは、まあ今後の課題でしょう、と。

PIFでは総じて感謝(Bartlett and DeSteno,2006)とか、共感(Watanabe, et al.,2014)とかの感情生起が要因だと言っているのが多い感じなのかな。今回の促進焦点もまあプラスの感情のプライミングではあるし。さて。どうしたものでしょうか。

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